二兎を追ってオリジナル商品も

二兎を追ってオリジナル商品も

Interview

竹田被服3代目 大塚雄一郎

竹田被服の1階にはCADや型紙を出力するプリンターなどが並ぶ。その前で竹田被服の展望を聞いた。

(記事・若岡 拓也)

2012年に東京での会社勤めをやめ、実家の竹田被服に入った。それまでは都内の企業でITエンジニアとして働いていた。本人としては、あまり考えていなかった選択肢だったというが、実は幼少期から継ぐための伏線はあった。

本人はあまり覚えていなかったが、母からよく手伝っていたと教えられた。

小学校から工場に帰ってくると、作業場で働くお姉さんたちから声をかけられ、仕事をお手伝い。意識することなく縫製という仕事に携わっていた。

服が心底好きかと聞かれると「わからないです」と素直に胸の内をさらす。一方、幼い頃から見てきた仕事の奥深さに惹かれている。

家業に入って、技術力の高さが受け継がれていることをはっきりと認識。

「裁断は面白いし、パターンをいじったりするのも好きです。ミシンも気になります」。実家を職場にして10年目。今も勉強の日々は続いている。

家業を学ぶだけでなく、新しい事業にも積極的だ。従来通りの受注生産だけでは、生き残っていくのが難しいと感じているからだ。

「二兎を追って既存の事業を回しながら、自分たちでも商品をつくっていきたいです」とオリジナル商品の開発に取り組んでいる。新しい取り組みを通じて、低賃金が常態化している業界を変えたいという思いもある。

「技術力が高くても、工賃が上がらず、最低賃金に近い状態です。仕事の内容、技術力が見合っていないのが現状です」。

とはいえ、海外にある低賃金で請け負う縫製工場と競っても、価格競争では勝負にならない。工賃を下げて注文を取れても、その場しのぎで未来にはつながらない。

「環境問題もあり、服を作るのは罪である。くらいの雰囲気が出ています。そんな社会状況もあり、稼働率100%を目指して、無理に作らなくてもいいのかなと思っています。その分、お客さんの声を反映したものづくりができれば」

画像差し替え予定(草刈パンツ)ポケットを位置にもこだわった草刈りパンツ。

心に秘めた思いから、地元のお客さんの声を聞き、小ロットでも、満足してもらえるものを作ろうと決めた。そうして生まれたのが「草刈りパンツ」だった。

自然豊かな竹田では、草刈りは日常生活の一部になっている。生活者の視点から意見を汲み取り、ポケットの位置やシルエットを工夫した。ストレスなく作業ができるように、そして、普段着としても使えるように仕上がった。

草刈りパンツ以外にも、他業種でものづくりに携わる方々からアイデアが持ち込まれていて、商品化に向けて、試作しているものもある。雑談の中から話が広がり、作ってみようと話が転がっていくという。

ブルーシートを素材にしたバッグ。熊本地震で被災した家屋の屋根などを覆うために使われたシートを再利用している。企画:BRIDGE KUMAMOTO/縫製:竹田被服
生地の端切れを縫い合わせて作ったトートバッグ。

スピード感ある展開が生まれるのは、頭の中にあるイメージを形にしてくれる高い技術力があってこそ。業界では、トップスだけ、ボトムスだけという縫製工場が多い中、竹田被服はオールマイティーに何でも扱えるのが強みだ。

「一番好きなのは人と一緒に何かをやることです。自分たちだけでは、できることは限られています。業種やジャンルを超えて力を合わせることで、新しい可能性が生まれます。地元の方々と一緒にできることを考えて、縫製×農業、縫製×カフェなど、新しいことに挑戦していきたいです」

そのために、実現できるかどうかよりも、まずは気軽に相談してほしいと雄一郎さん。生地をつなぎ合わせるように、いろんな人とつながりを持ち、地域を盛り上げていきたい。そう語る笑顔は、竹田の街が心底好きだと物語っていた。

自社で仕立てたツナギがよく似合う。現場感を大切に新しい事業を進めていく。